40代からランニングやマラソンへ挑戦するとき、走る練習だけで十分なのか、筋トレをすると身体が重くならないか、と迷う方がいます。
結論から言えば、筋力トレーニングはランナーの身体づくりに役立つ選択肢です。ただし、筋トレをすれば必ず速くなる、怪我を完全に防げるという意味ではありません。走る量、強度、回復、過去の怪我、現在の筋力を合わせて考える必要があります。
この記事では、40代のランナーが筋トレを取り入れる理由と、無理なく続けるための組み立て方を、S&C(ストレングス&コンディショニング)とRTP(競技復帰支援)の視点から解説します。
横浜では、横浜マラソン2026が10月25日に開催予定大会が近い時期ほど、新しい高負荷トレーニングを急に増やすのではなく、現在の走行量と回復を確認し、走る練習を邪魔しない形で配置する必要があります。
答え:走る練習が中心、筋トレは土台をつくる
マラソンの練習には、実際に走ることが欠かせません。筋トレだけで長い距離を走れるようになるわけではありません。
一方、走る動作では、一歩ごとに片脚で身体を支え、地面へ力を伝えます。距離が延びれば、その動作を何千回、何万回と繰り返します。股関節、膝、足首まわりの筋力に加え、疲れても姿勢と動作を保つ力が必要です。
筋トレの役割は、筋肉を大きくすることだけではありません。
- 片脚で身体を支える力を高める
- 地面へ力を伝える動きを学ぶ
- 長い距離で同じ動作を繰り返す土台をつくる
- 左右差や動かしにくさを確認する
- 坂道やスピード変化に必要な出力を準備する
2024年の系統的レビュー・メタ分析では、31研究・652人の中長距離ランナーを対象に、高負荷の筋力トレーニング、プライオメトリクス、複数方法の組み合わせが、条件によってランニングエコノミーの改善につながる可能性が示されました。一方、方法によって結果は異なり、主な対象はすでに走っているランナーです。系統的レビュー・メタ分析(PubMed)
2021年に発表された、週30km以上走る中程度にトレーニングされたランナー30人のランダム化比較試験では、10週間のランニングと筋力トレーニングの併用群で、ランニングのみの群と比べて2km走のタイムと疲労困憊までの時間が改善しました。試験の要旨(PubMed)
ここで紹介する研究は40代だけを対象にしたものではありません。年齢、走歴、性別、現在の体力によって同じ変化が得られるとは限りませんが、走る練習へ筋トレを加える意義を考える資料になります。
40代ランナーが最初に確認したいこと
1. 何を目指して走るのか
健康のために週2回走りたい人と、半年後のフルマラソン完走を目指す人では、必要な練習量が異なります。タイムを縮めたいのか、痛みなく趣味を続けたいのかでも優先順位は変わります。
最初に、出場予定、目標距離、現在の走行量、確保できる曜日を整理します。
2. 走る前の身体の状態
スクワット、片脚立ち、ステップ動作、ふくらはぎの上げ下げなどを確認します。左右を完全に同じにすることが目的ではありません。走る量を増やす前に、明らかな動かしにくさや不安がないかを見ます。
過去に怪我をした部位がある場合は、現在の症状、医療機関からの指示、どこまで運動へ戻れているかも確認します。
3. 仕事を含めた負荷
トレーニングの負荷は、走行距離だけではありません。睡眠不足、長時間のデスクワーク、出張、会食、心理的な疲労も回復へ影響します。
週末に時間があるからと、平日にほとんど運動していない状態で急に長い距離を走ると、身体の反応を予測しにくくなります。仕事の予定も含め、繰り返せる一週間を設計します。
ランナーが優先したい5つの動き
1. スクワット系
膝と股関節を曲げ、身体を支える動きです。自重、ゴブレットスクワット、スプリットスクワットなどから、現在の筋力と経験に合うものを選びます。
2. ヒップヒンジ系
股関節を中心に身体を前後へ動かす練習です。ヒップリフト、ルーマニアンデッドリフトなどを、背中や膝に無理のない範囲で行います。
3. 片脚で支える動き
ステップアップ、スプリットスクワット、片脚のバランスなどです。走る動作に近い片脚支持を、速度を落として確認できます。
4. 足首・ふくらはぎの動き
両脚または片脚のカーフレイズなどで、足首を使って地面を押す力を育てます。回数だけを増やさず、動かす範囲と左右の反応を確認します。
5. 体幹と上半身
走るときも、上半身と骨盤の位置を保ち、腕を振る必要があります。ローイング、プッシュアップ、キャリー種目なども目的に応じて取り入れます。
ジャンプやホッピングもランニングに関係しますが、すべての初心者が最初から行う必要はありません。筋力、着地、過去の怪我を確認し、適切な段階で導入します。
2025年のランダム化比較試験では、よくトレーニングされた男性ランナー28人を対象に、最大筋力とプライオメトリクスを週2回、10週間加えた群で、90分走終盤のランニングエコノミーと、その後の高強度運動の継続時間が改善しました。試験の要旨(PubMed)
ただし、対象は経験のある男性ランナーです。初心者が同じ内容をそのまま行う根拠にはなりません。
筋トレは週何回行えばよいか
厚生労働省とWHOは、一般成人の健康づくりとして、主要な筋群を使う筋力トレーニングを週2日以上行うことを勧めています。一方、ランニングを始めたばかりで回復に時間がかかる人は、週1回から動きを覚え、慣れてから調整する方法もあります。
大切なのは、筋トレだけを独立して考えないことです。例として週3日走る場合は、次のように強度の高い日を連続させない形が考えられます。
- 月曜日:全身の筋力トレーニング
- 水曜日:会話できる程度のランニング
- 金曜日:短めのランニングと補助種目
- 日曜日:少し長めのゆっくりしたランニング
これは一例であり、最適な曜日は仕事、経験、目標によって変わります。筋トレ翌日の筋肉痛が走り方を大きく変えるなら、種目、セット数、曜日を見直します。
「週間10%ルール」だけで安全は判断できない
「週間走行距離を前週比10%以内にすれば怪我を防げる」とは断定できません。従来の週間10%ルールを支持する根拠は限定的です。走行量と怪我に関するレビュー
一方、2025年の5,200人を超える成人ランナーの前向きコホート研究では、直近30日間の最長距離を大きく上回る単回の走行と、使いすぎによる怪我との関連が報告されました。観察研究であり、一定の割合未満なら安全を保証するという意味ではありません。前向きコホート研究
国際オリンピック委員会のコンセンサス声明も、トレーニング負荷だけでなく、競技日程、心理的負荷、移動などを含めて管理する重要性を示しています。IOCのコンセンサス声明(PubMed)
ランニングでも、距離、速度、坂道、回数を一度に増やさず、身体の反応を確認することが基本です。次のうち変更するのは、一度に一つか二つに絞ります。
- 1回の走行時間
- 週間走行距離
- 走る日数
- ペース
- 坂道やインターバル
- 筋トレの重さと量
先週より何%増えたかだけでなく、直近の最長距離、走っている最中、翌朝、次の練習時にどう感じるかを記録します。
痛みが出たら、走りながら直そうとしない
軽い疲労と、運動を中止した方がよい症状を自分だけで区別できないことがあります。
強い痛み、腫れ、しびれ、体重をかけられない状態、歩き方が変わるほどの痛み、急な症状がある場合は、ランニングや筋トレを中止し、医療機関へ相談してください。医師から運動制限やリハビリの指示を受けている場合は、その内容を優先します。
痛みが落ち着いたあとも、すぐに元の距離と速度へ戻すとは限りません。歩行、短いジョギング、距離、速度というように段階を分けて確認します。詳しくは怪我のあとのRTP(競技復帰支援)解説しています。
佐々木自身も、走る側の感覚を大切にしている
佐々木貴大は、ラグビー日本最高峰リーグの優勝チームでS&CとRTPの現場指導を担当し、国際水準の環境で負荷調整と競技復帰に向き合ってきました。
同時に、佐々木自身もマラソンに取り組んでいます。専門知識だけでなく、仕事の予定と練習を両立する難しさや、長い距離へ挑戦する楽しさも踏まえて、一般の方に合う計画へ置き換えます。
プロ選手と同じトレーニングを行うのではありません。身体の状態、走歴、目標大会、確保できる時間を確認し、必要な筋力と走る練習のバランスを整えます。
個別に組み方を確認する価値があるランナー
次のような方は、種目を増やす前に、走る練習と筋トレを同じ週間予定で整理する価値があります。
- 過去の怪我があり、走行量を増やすことに不安がある
- 筋トレ翌日の疲労で走り方が大きく変わる
- 仕事の繁忙期と大会準備を両立したい
- 片脚の動きや左右差を自分で判断しにくい
- 目標大会へ向け、何を減らし何を残すか迷っている
強い痛みや新しい症状がある場合は、個別指導より先に医療機関へ相談してください。医療者から運動条件を示されている場合は、その範囲を優先します。
まとめ:筋トレを増やす前に全体を設計する
40代からのランニングでは、走る練習を中心にしながら、筋力トレーニングで支える力と動作の土台をつくることが有効です。
ただし、筋トレの種目数を増やすことが目的ではありません。走行量、強度、筋トレ、回復を一週間の中で整理し、身体の反応に合わせて進めます。
横浜元町・石川町で、マラソンやランニングを長く楽しむための身体づくりを始めたい方は、現在の走り方と目標から一緒に整理しましょう。
